腎がん

腎がんとは

腎がん (腎細胞がん) は、尿を産生する腎臓に発生する悪性腫瘍です。腎がんは成人10万人あたり約17人の割合で発症します。男性は女性の2倍の発症率となっています。腎がん発症のリスク因子としては、喫煙や肥満そして高血圧が挙げられ50~70歳台で好発します。また、最近ではホンヒッペルリンドウ(VHL)病の発症の原因となるVHL遺伝子異常をはじめとする様々な遺伝子変異と腎がんの発症の関連性も解明されてきました。さらに、腎不全で透析を受けている患者さんは、正常人の5~10倍の発症リスクがあるとされています。

 

症状

早期の腎がんでは、無症状のことがほとんどです。一方、腎がんが進行し、腫瘍のサイズが大きくなると、側腹部の痛み、腫脹そして肉眼的血尿などの症状が出現します。最近では、人間ドックの超音波検査、他の疾患での画像検査(超音波検査やCT検査など)で偶然に発見される早期の腎がんが増えています。

 

検査

腎がんは、消化器がんや前立腺がんのような特定の腫瘍マーカーはありません。主に超音波検査や造影CT検査で診断します。また、腎機能障害やアレルギーのため造影剤が使用できない際は、MRI検査を行うことがあります。リンパ節や他の臓器(肺、肝臓、骨など)に転移していないかを調べるために、PET-CT検査や骨シンチを行い、さらに、手術を行う際に腎臓の血管の数や走行など確認するために、3D-CT血管造影検査を行う場合があります。

画像検査で腎盂がん、悪性リンパ腫、そして転移がんなどとの鑑別が困難である場合、すでに転移があり、薬物療法を行う前の組織診断として、腫瘍の一部を採取する針生検を行う事もあります。

 

腎がんのステージ

腎がんのステージはエコー、CT、骨シンチそしてPET-CT検査などで、腫瘍の大きさ・広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無によって決定されます。(図1,表1,表2)

図1 腎がんの広がりによる分類(「じんラボ」より)

表1 TNM分類(国立がん研究センター「がん情報サービス」より)

表2腎がんのステージ(国立がん研究センター「がん情報サービス」より)

 

治療

腎がんの治療には、手術、薬物療法があります。腎がんの進行度(ステージ)に応じて、治療法が決定されます(図2、3)。転移のない腎がんに対しては手術療法、転移がある場合には薬物療法が基本的に行われますが、転移がなくても下大静脈や周辺の臓器に広がっている場合、転移があった場合にも薬物療法で腫瘍を小さくしてから手術を行う場合があります。

放射線療法は腎がんに無効とされていますが、転移があった場合、痛みなどの症状を緩和する目的で、転位部位に対して放射線療法を行う場合があります。

 

1)腎がんが転移していない場合 (I期-III期)

がんが他の部位に転位をしていない場合、癌を外科的に取り除くことによって、根治出来る可能性が高くなります。特に腫瘍が比較的小さい場合(4cm未満)には、腫瘍のみを取り除き、腫瘍のない正常組織部分は残す(腎部分切除術)ことも可能であり、手術による腎機能の低下を最小限にとどめることが出来ます。ただし、腫瘍の位置によっては部分切除ができないこともあります。一方、腫瘍が4cmを超えると腎臓全体を取り除かなければならない(根治的腎摘除術)場合もあります。腎部分切除術および根治的腎摘除術は、ほとんどの場合、低侵襲手術(からだに負担の少ない手術)の腹腔鏡手術、ロボット支援手術で行えるようになっており、術後の痛みの軽減、入院日数も短縮され、さらに従来の開腹手術と比較して、安全性および治療成績についても遜色ないとされています。一方、腫瘍が心臓に血液を運ぶからだの中で最も太い下大静脈や周辺の臓器に広がっている場合には、開腹手術が必要となることがあります。

図2ステージI~III期の治療(国立がん研究センター「がん情報サービス」より)

 

2)腎がんがリンパ節または他の臓器に転移している場合 (IV期)

腎がんが、他の場所に転移している場合には、薬物による治療が中心となります。腎がんは抗がん剤が効きにくく、長年、サイトカイン療法(インターフェロン・インターロイキン2)が行われていましたが、その有効率は15~20%程度でした。2008年以降になって、新たな治療薬として、分子標的治療薬(分子標的薬)が開発され使用できる様になりました。分子標的薬は、腫瘍細胞の増殖や腫瘍に栄養を与える血管内皮細胞の増殖にかかわる細胞内シグナル伝達を阻害することによって腫瘍の増殖を抑える薬で、大まかに分類して2つの種類(マルチキナーゼ阻害剤、mTOR阻害薬)あります。さらに、2016年には、免疫療法として免疫チェックポイント阻害剤が使用できるようになりました。がん細胞は、免疫の攻撃から逃れる能力を持っていますが、免疫チェックポイント阻害剤は、自らの免疫細胞が、がん細胞を攻撃する能力を回復させる薬剤です。現在では、分子標的治療薬と免疫チェックポイント阻害剤が、進行性の転移性腎がんの治療の中心となってきています。このように、近年、新しい治療薬が次々と登場したことで治療の選択肢が広がり、患者さん個々の状態に応じた治療が行いやすくなりました。一方で、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害剤も様々な副作用があり、治療の継続の為には副作用対策も重要です。

図3ステージIV期の治療(国立がん研究センター「がん情報サービス」より)

 

生存率

腎がんのステージ別の5年生存率は、ステージⅠ期 94.9%、II期 87.9%、III期 76.5%、Ⅳ期 18.7%と報告されています。

 

参考資料

・国立がん研究センターがん情報サービス、がんの統計2022