前立腺がん

前立腺がんとは

膀胱の下にある、前立腺という臓器から発生するがんの事です。欧米に多いがんとされてきましたが、近年は日本でも増加傾向にあります。2018年の前立腺がんの発症数は9万人を超え、男性がん第1位になっています。死亡数は1万2千人ほどで、第6位ですが、増加傾向にあります。現在のところ、前立腺がんの生涯発症リスクと死亡リスクは、それぞれ9人に1人、61人に1人であることが報告されています。

日本人において前立腺がんが増えている理由として、①人口の高齢化、②遺伝、家族歴、③食生活の欧米化が挙げられることが多いです。特に、食生活の影響は重要と考えられており、高脂血症や肥満は、前立腺がんの発症リスクや死亡リスクを高めることが報告されています。

 

症状

早期がんでは、無症状のことがほとんどです。前立腺がん特有の症状はありませんが、排尿困難、頻尿、残尿感といった下部尿路症状を認めることがあり、前立腺肥大症との鑑別が必要です。また、進行すると骨に転移することが多いため、腰痛といった転移症状からがんが発見される場合もあります。そのほか、血尿、下肢のむくみ、水腎症も進行例では、認められることがあります。

 

検査

前立腺がんの検査法には、血液検査、画像検査、そして組織検査があります。血液検査として、PSA(ピー・エス・エー)検査がよく知られています。前立腺組織から分泌される蛋白ですが、前立腺がんではその値が上昇するため、腫瘍マーカーとして用いられています。その数値でがんの危険性が判定されますが、前立腺肥大症や炎症でも上昇することがあります(図1)。

 

図1

前立腺がんの画像検査としては、MRI検査が有用です。これらの検査により、前立腺がんが疑われる場合、確定診断のため、前立腺針生検検査が実施されます。これは、肛門より入れた超音波装置で前立腺を観察しながら、生検用針で10~12か所の組織を採取するもので、日帰りでの検査が可能です。組織検査において、前立腺がんが診断された場合、がんの広がりを診断(病期診断)するため、CTや骨シンチグラフィー検査が行われます。施設においては、PET/CT検査が実施される場合もあります。図2に前立腺がんの検査と診断の流れについてお示しします。

 

図2

 

治療

前立腺がんの治療には、手術、放射線治療、そして薬物療法があります。前立腺がんの進行度(ステージ)に応じて、治療法が決定されます(図3)。早期がんにたいしては、手術療法と放射線治療が標準的治療法ですが、腫瘍量の少ない、低悪性腫瘍にたいしては、過剰治療を回避する目的から監視療法という方法が取られることがあります。転移がんにたいしては、薬物療法が治療の中心となります。ホルモン療法(男性ホルモン除去療法)のほか、抗がん剤治療や分子標的療法が行われます。そのほか、がん性疼痛にたいする緩和目的に放射線治療が行われることもあります。

手術療法

治療内容は、前立腺と精嚢腺を一塊にして摘出するものです。副作用として、尿失禁と男性機能低下が重要です。神経を温存することで、男性機能の回復が期待できます。治療方法として、従来の開腹手術のほか、腹腔鏡手術やロボット手術といった低侵襲手術が行われています。

放射線治療

放射線によりがん細胞を死に至らしめる治療法です。体の外から放射線を照射する外照射療法のほか、前立腺内に線源を埋め込み、内部より治療を行う小線源治療があります。副作用として、頻尿が見られます。また、放射線治療の一つとして、粒子線治療も行われています。

 

図3

 

生存率

前立腺がんは、他のがんと比較して良好な生存率が得られることが知られています。ステージ別生存率は、ステージⅠ~Ⅲまでの10年生存率は100%で、ステージⅣでも、5年生存率62.5%、10年生存率44.7%と報告されています。

 

参考資料

国立がん研究センターがん情報サービス、がんの統計2022