前立腺肥大症

前立腺とは

前立腺は男性に特有の臓器で、膀胱の下にあります(図1)。膀胱に貯まった尿は、最初に前立腺部尿道を通り、その先の尿道を通過して体外に排出されます。前立腺は前立腺液を分泌し精液に混ぜて、精子の保護や運動能を高める役割を果たしています。つまり前立腺は排尿機能と生殖機能に関わる臓器といえます。

図1:文献1「図説 下部尿路機能障害」(山口侑先生ほか)より改変

 

前立腺肥大症とは

前立腺は尿道を取り巻いている内腺と、その外側の外腺からなります。前立腺肥大症は、この内腺が肥大する疾患です。一般的には50歳前後から肥大し、様々な“下部尿路症状”の原因となります。前立腺肥大症の危険因子としては加齢のほか、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症などいわゆるメタボリック症候群との関連が指摘されています。

なお、前立腺肥大症はあくまでも“良性の腫れ”であり、放置すると前立腺がんに変化するものではありません。ただし、“肥大症”と“がん”が同時に存在することがあり、鑑別が必要です(<検査>PSAの項参照)。

図2:<正常の前立腺と、前立腺肥大症>

 

症状

前立腺が肥大することにより、以下のような“下部尿路症状”の原因となります。

  • 蓄尿症状:頻尿(尿の回数が多い)、尿意切迫感(トイレに駆け込む、間に合わない)
  • 排尿症状:排尿困難、尿勢低下(尿の勢いが弱い)、排尿遅延(時間がかかる)
  • 排尿後症状:残尿感、排尿後滴下(切れが悪い)

図3:文献1「図説 下部尿路機能障害」(山口侑先生ほか)より改変

 

検査

1)症状スコアによる評価

IPSS、OABSSなどの質問票スコア:症状の頻度により点数をつけて、症状をスコア化します

図4:文献2「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン (日本泌尿器科学会 編)」より

 

2)検尿

尿に出血や濁り、細菌などが混じっていないかを調べます。

 

3)腹部エコー

前立腺の大きさや形を調べます。また、排尿後の残尿量もエコー検査で測定します。前立腺は通常、20ml前後(くるみ程度)の大きさですが、肥大が進むと50ml、100ml、200mlにまで達することもあります。大きさ以外にも、前立腺が膀胱を下から押し上げるような形状をしている場合、尿がしっかり出し切れずに残尿が増えたり、膀胱の刺激になり頻尿症状の原因になることがあります。

 

4)尿流量検査

膀胱に貯めた尿が、どれくらいの勢いで、どれくらいの量を出せているのかを評価します。

 

5)PSA(前立腺特異抗原)

前立腺から分泌され、精子の運動能を上げるたんぱく質です。採血検査で測定することができ、基準値(4.0 ng/ml)を超える場合は、「がん」を疑い、詳しい検査が必要になります。サイズの大きな前立腺肥大症や、前立腺に炎症を起こした場合にもPSAが基準値を超えることがあり、がんとの鑑別のために直腸診、MRI、生検(組織を実際に検査用の針で採取する)などが行われることがあります。

 

治療

1)薬物療法

前立腺肥大症の治療は通常、投薬から開始されます。さまざまな種類の薬があり、これらを単独あるいは組み合わせて服用します。

①α1ブロッカー(タムスロシン、ナフトピジル、シロドシンなど):排尿時に前立腺部の緊張を和らげ、尿勢を改善させます。また、頻尿症状にも一定の効果があります。

②5α還元酵素阻害薬(デュタステリド):男性ホルモン(テストステロン)が前立腺組織に作用するのを抑え、前立腺体積を30%程度、縮小させるといわれています。

③PDE5阻害薬(タダラフィル):尿道、前立腺、膀胱の平滑筋を弛緩させ、血流をよくすることで下部尿路症状を改善します。一部の心血管疾患を合併する場合には投与禁忌です。また、勃起障害(ED)に対して処方される場合とは、用法、用量が異なります。

④抗アンドロゲン剤(クロルマジノン、アリルエストリノール):男性ホルモンの前立腺組織への取り込み阻害や、血中男性ホルモンの低下作用などにより、前立腺を縮小させる効果があります。性機能障害の副作用が多く、5α還元酵素阻害薬の登場以降は処方されることは少なくなりました。

⑤漢方薬、生薬など:残尿感、頻尿などの症状を緩和する効果が期待できます。上記の薬と併用されることが多いです。

⑥過活動膀胱治療薬(β3作動薬、抗コリン薬など):前立腺肥大症患者様の50%以上に、過活動膀胱の症状(尿意切迫感を伴う頻尿)が合併するといわれています。上述の前立腺肥大症の薬と併用されることがありますが、膀胱がリラックスすることで残尿が増えることがあるため、前立腺肥大症の方への投与には注意が必要です。

 

2)手術療法

薬物療法で十分な効果が得られない場合に、手術療法が検討されます。投薬治療が有効でないまま長期間が経過した場合、膀胱壁の変形が生じ、しなやかさが失われ、ますます排尿・蓄尿症状の悪化を招きます。また、前立腺部の閉塞が強く、尿が出なくなった場合には(尿閉)、膀胱が緊満し、やがて腎臓~尿管が腫れて(水腎症)、いわゆる腎不全に至ることもあります。

手術療法が必要と判断された場合、主に以下のような方法が選択されます。(病院によって手術法が異なるため、それぞれの施設にお問い合わせください)

①TURP(経尿道的前立腺切除術)

内視鏡を用いて、前立腺部尿道の内側から、腫大した前立腺をループ状の電気メスで短冊状に削る方法です。狭いトンネルを内側から掻き広げるようなイメージの手術で、1980年代から普及し、現在も標準的な術式といえます。

図5:文献1「図説 下部尿路機能障害」(山口侑先生ほか)より

 

②HoLEP(経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術)

腫大した内腺と、外腺の間をレーザーで溶かしながら剥離して、膀胱内に核出したのち、細切吸引して取り出す方法です。みかんの実を、皮からむいてとるようなイメージの手術です。従来のTURPよりも出血が少なく、大きな腺腫にも対応可能な方法ですが、レーザー装置が必要です。

図6:Boston Scientific社資料より

 

③TUEB(経尿道的バイポーラ電極前立腺核出術)

特殊な形状の電気メスを用いて、上記のHoLEPと同様の手順で腺腫を核出する方法で、TURPに使用する機材を用いて行うことができます。

 

④被膜下前立腺腺腫核出(開放手術)

巨大な前立腺肥大症に対して、開放手術が行われることもありますが、HoLEPやTUEBなどの術式が普及して以降は、この術式が選択されることはまれになっています。

 

⑤レーザーによる前立腺蒸散術

用いるレーザーおよびレーザーの照射法によって以下の様な方法があります。

  • PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術):緑色光のレーザーで、前立腺組織を蒸散させる方法。
  • CVP(接触式レーザー前立腺蒸散術):ダイオードレーザーで前立腺組織を気化・除去する方法。
  • ThuVAP(ツリウムレーザー前立腺蒸散術): 2μm連続レーザーを照射して腺腫を蒸散、切除する方法。

 

⑥経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)

前立腺の中にインプラントを埋め込み、尿の通り道を開通させ、排尿症状を改善させる方法です。

 

⑦経尿道的前立腺水蒸気治療(WAVE)

REZUMシステムを用いて、腺腫内に高温の水蒸気を注入して前立腺を縮小させる方法です。平均治療時間が10分程度で、ほとんど出血のない、低侵襲手術として注目されています。

図7:Boston Scientific社資料より改変

 

文献

・図説 下部尿路機能障害 (山口 侑 ほか)
・男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン (日本泌尿器科学会 編)