ロボット支援手術

ロボット支援下手術の歴史

医療用ロボットは、宇宙探査および戦地医療での遠隔操作治療の目的で開発が進められて、当初は、遠隔操作による時間差が問題となっていましたが、遠隔操作技術の進化よりこの欠点が克服され 1)、2000年にIntuitive Surgical社の内視鏡手術支援ロボットda Vinciが米国で認可されて以降、欧米各国でロボット支援手術が急速に普及してきました。国内では、厚生労働省 に認可されるまで時間を要し、2012年4月に限局型前立腺癌に対してのみ保険診療が適用されることになりました 1)。前立腺癌領域での診療実績により、その安全性と有用性が確認され、2016年には小径腎臓癌に対するロボット支援下腎部分切除、2018年には浸潤性膀胱癌に対する手術が認可され、ロボット支援下手術は、泌尿器科領域における低侵襲手術の主流となりました。さらに、外科領域、婦人科領域にも手術適応が拡大され、現在は国内で400台以上の医療用ロボットが普及し、世界2位の稼働件数となっています。

 

ロボット支援下手術の特長

現在、国内で最も普及しているda Vinciシステムは、サージョンコンソール (右端)、ペイシェントカート (真ん中)、ビジョンカート (左端)の3部位から構成されています。ロボットそのものが手術を施行するのではなく、サージョンコンソールに坐った術者がリモート操作で患者さんペイシェントカートを動かし、手術を行います。術野は、ビジョンカートに大きく鮮明に映し出され、手術用ベッド脇に位置する助手や周囲の医療者に共有され、術者と協調しながら手術を進めていきます。

 

従来の腹腔鏡手術に比して、ロボット支援下手術は、①3D画像による高解像度 ②鉗子の高い自由度 ③手指の細かい動作の再現と手振れ補正という点で優れています。

①高解像度の3D画像により体内を立体的に映し出し、最大約10倍のズーム機能により、患部を拡大視野でとらえ、今まで肉眼的に見ることのできなかった細かい血管、リンパ節、神経を視認することが可能になり、より精密な手術を可能としました。

②自由度の高い鉗子は、人間の腕、手首、指先のような役割を担っており、270度の可動域を有するため、回転・上下左右と自在な動きが可能となり、術者の手の動きに連動して正確に細かく動きます。

③手先の震えが鉗子の先に伝わらないように手ぶれを補正する機能も搭載され、細い血管の縫合や神経の剥離などを正確に行えます。

 

これらの特長により、ロボット支援下手術は、従来の開腹や腹腔鏡下手術よりも出血量が少なく、合併症が少ない安全で、より低侵襲な手術として手術適応を広げております。

また、国内では、2020年8月に国産初になる「hinotori サージカルロボット」が承認をされ、泌尿器科領域のみならず、婦人科領域や一般消化器外科領域でも追加承認され、採用する病院も徐々に増加しています2)

 

各泌尿器疾患に対するロボット支援手術

  • ロボット支援前立腺全摘除術 ➡ 前立腺癌
  • ロボット支援腎部分切除術 ➡ 小径腎癌
  • ロボット支援下膀胱全摘除術 ➡ 膀胱癌
  • ロボット支援下腎盂形成術 ➡ 腎盂尿管移行部狭窄症による水腎症
  • ロボット支援腎摘除術 ➡ 腎癌
  • ロボット支援腎尿管全摘除術 ➡ 腎盂・尿管癌
  • ロボット支援下仙骨膣固定術 ➡ 骨盤臓器脱

 

開腹手術とロボット支援手術の手術創の比較

前立腺全摘除術

腎部分切除、腎摘除術

参考文献

1 ロボット手術マニュアル da Vinci手術を始めるときに読む本, メディカルビュー社, 2012
2 藤澤 正人, ロボット支援前立腺全摘除の新しい展開, Prostate Cancer Front Line, VoL11, No.2, 2023